見直されるサブトラ??
プリント基板の製造における回路形成方法では、従来からサブトラクティブ工法(サブトラ法)と呼ばれるエッチングで不要な部分を取り除く工法が主に用いられていました。
しかし電子回路の微細回路化によってこのサブトラ法は限界に近づき、代わりに必要な銅回路部分にのみめっきを行うアディティブ工法(主に全面シード層の上にめっきレジストを形成するセミアディティブ法)が普及してきました。
なぜサブトラ法が微細回路に向かないかというとエッチング時に回路の側面を侵食し回路の細りが進行するためです。たとえば銅回路厚が20um必要であれば不要な部分も20umエッチングする必要があるのです。
20umもエッチングをすれば深さ方向のみならず横方向にもエッチングが進行し回路はどんどん細り、台形のような形になってしまうのです。理想は深さ方向にのみエッチングが進行してくれることです。(エッチファクタが良好な状態)
そこで普及したのSAPやMSAPのセミアディティブ工法です。これらは主に半導体パッケージ基板に用いられており、もっとも微細回路が必要とされるのもこれらの半導体パッケージ基板です。
しかし回路が微細化するにつれ回路の厚みもどんどん薄くなってきています。(回路が薄くならないと縦長のバランスの悪い回路になってしまう点もある)
たとえば現状ではコア層やビルドアップ層の導体厚みは15umや20umはありましたが、いまや10umそこそこの水準を目標に薄くなってきている製品もあります。
現在ではフィルドめっきの性能も向上してきており、ブラインドビアを埋めるのに必要な銅めっき厚も薄くてすむものも出てきています。
アディティブ法の最大の弱点は銅回路のめっき膜厚ばらつきです。
これは回路デザインの影響も受けるのでなかなか改善するのが難しいようです。
となると全面銅めっきをしてしまえばめっき膜厚の問題もクリアしやすく、またフィルドめっきも薄くできるようになれば、サブトラ法でもエッチング量が少なくて済むのではないかと。
上記のような環境が整ってくれば微細回路化に対応できるサブトラ法も確立できるのではないかと推測しています。コストもサブトラのほうが安いですしね。
・フィルドめっき厚の薄膜化
・回路エッチング液のエッチファクタ向上
・エッチングレジストの密着性向上
上記が克服できればまだまだサブトラ法の出番も増えてくるのではないでしょうか。
JPCAショー2013
今年のJPCAショーも行ってきました。若干景気回復しているためか入場者も増えていたような気がしましたがどうなんでしょうね。
表面処理関係は正直なところ革新的な技術の展示はありませんでしたね。
個人的に気になったのは成型回路部品(MID=Molded Interconnect Device)のLDS(Laser Direct Structuring)法という技術です。
専用の成型材料で成型された部品にレーザーを照射して回路を描くのですが、レーザー照射された部分(=回路)が活性化され、Pd触媒レスで無電解銅めっきが析出するというものです。
レーザー照射装置もその特殊な成型材料も日本LPKFさんの専売なのですが、欧米ではすでに普及している技術のようです。(日本での導入実績はまだ数社)
この工法であればすべて無電解めっきで回路形成ができますので、独立回路もめっき厚ばらつきの心配もありませんね。
ただし基材自体に導電材料が入っている点、またレーザーの精度の問題もありそうなのでどこまでのファインパターンに対応できるかは気になるところです。
ネプコンジャパン2013
ネプコンも終わりましたね。
表面処理関係のブースは入場者数も減ってさびしかったような気がします。
プロセス関係はとくに目新しいものも無かったような・・・
気になったところでは、エッチングで二流体ノズルを用いたスプレー装置が今後普及していくのでは?ということです。
二流体ノズルとは液体(エッチング液)と気体を混合して噴射できるノズルで、エッチング液をより微粒化して噴霧できるというものです。
微粒化できることでムラ無くファインパターンの形成が可能になるといわれています。
これまでは噴射したエッチング液が滞留するのを防ぐため、エッチング液を噴射すると同時に吸引するといったバキューム装置が主力でしたが、今後は二流体ノズルとバキュームを組み合わせた新しいエッチング装置に期待したいですね。
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注目されるMSAP
現在このブログの検索ワードでもっとも多いのは『MSAP』です。
MSAPについては過去の関連エントリを参照ください。
MSAP工法のポイント
SAPとMSAP
ブラウン処理(ダイレクトレーザー前処理)
注目されているのにはこんな背景もあります↓
『半導体売上高世界一のインテルが苦境に陥った原因』
リンク記事のP3にも記載されていますがスマートフォン、タブレットPCの台頭でARM系のプロセッサの販売量が急増しています。
そしてこれらのARM系プロセッサのサブストレート(FCCSP)には主にMSAP工法が採用されているといわれています。
ですのでここ数年でMSAPというワードに触れる機会が増えてきているのですね。
ただし回路の微細化にはSAPが有利ですので、今後はARM系プロセッサのサブストレートにもSAP工法の採用が増えることも考えられます。
両者の工法で影響を受けるのはやはり積層基材でしょうか。
MSAPはエポキシ系、BT樹脂などのプリプレグ、SAP工法ではABFのような専用絶縁基材が用いられますので、これらのメーカーの動向にも注目したいですね。
またLCPやPIなどのエンプラが使用されるのではという噂もありますが、どうなっていくのでしょうか・・・
年明けのインターネプコンでも調査をしてみたいと思います。
硫酸銅めっきの不溶解性アノード
フィルドビアめっきをはじめとする硫酸銅めっきにおいては、不溶解性アノードの採用が進んでいますね。
不溶解性アノードのメリットとしては、
・アノードの補充や洗浄などのメンテナンスが不要
・アノードの寸法変化によるめっき厚ばらつきの問題がない
・アノードスラッジに起因する不具合(ブツ・ザラ)の発生がない
・アノードのブラックフィルムの管理が不要(ダミー電解など)
・アノードから溶出する一価銅による添加剤の変質がない
などが挙げられます。
硫酸銅めっきの不溶解性アノードは一般的にはチタン基材上に酸化イリジウムをコーティングしたものが広く使われています。
不溶解性アノードの陽極反応では酸素ガスが発生し、この酸素ガスによって添加剤が酸化分解されてしまうケースがあるため、アノードを隔膜などで隔離する対処も行われています。
最近では陽極の酸素ガス発生を抑えたアノードも開発され、一部では採用が進んでおり、この場合は隔膜が不要になるケースもあるようです。
また含りん銅ボールのようにアノードから金属塩の補給がされないため、金属塩の補給を考える必要があります。
一般的には酸化銅(CuO)が用いられています。
不溶解性アノードのデメリットとしては、
・イリジウムアノードや酸化銅供給装置、隔膜などの装置コストがかかる
・酸化銅を溶かすのに硫酸が必要なため、低硫酸浴では運用が難しい
・アノードの抵抗が高いため、整流器の定格が大きくなる
・酸化銅起因の不純物の管理が必要になるケースもある
などが挙げられます。
CuO + H2SO4 → CuSO4 + H2O
この通り酸化銅は硫酸と反応して溶解するためフィルドめっきのような極端に硫酸濃度が低いめっき浴では、酸化銅の溶解が進まないケースもあります。
また酸化銅自身もエッチング液などから再生成されるため、不純物が混入しているケースもあり、これらの不純物が硫酸銅めっきの性能を落とす事例も聞かれます。
しかし総合的にはアノードのメンテナンスが不要になったり、ブラックフィルムの管理、一価銅の溶出によるブライトナーの擬似過剰現象等の問題が解消されるのは大きなメリットだと思います。