世界で勝負する仕事術

ちきりんさんの『Chikirinの日記』や、『BBM(ビジネスブックマラソン)』の土井英司さんも紹介していたこの本↓

世界で勝負する仕事術 最先端ITに挑むエンジニアの激走記 (幻冬舎新書)

世界で勝負する仕事術 最先端ITに挑むエンジニアの激走記 (幻冬舎新書)

すごくよかったです。

著者の竹内さんは東芝に入社しフラッシュメモリの開発に従事されます。
当時はまだフラッシュメモリは普及前で、今となっては考えられませんがフラッシュメモリ事業は社内でもお荷物状態だったそうです。

そこでの竹内さんは雑用の毎日、しかし独学でフラッシュメモリの基礎技術を学びます。
しかしバブルが崩壊から3年後、竹内さんの所属する研究所は閉鎖となってしまいます。

フラッシュメモリの開発チームも解散し、メンバーはばらばらの部署に配属されてしまいます。
当時メモリ容量が2倍になる「多値フラッシュメモリ」の開発中でしたが、技術難易度が高く会社からはまったく認められていませんでした。
しかしチーム解散後も水面下では開発を続け、学会での論文発表や特許取得を進めていたそうです。

『会社が認めないないなら、世界で認めさせてやる』

そのときの竹内さんの決意です。

私も常々「会社の評価よりも市場の評価が重要だ」と思っています。

昔の上司にこういわれたことがあります。

「よそで値段がつかないようなやつは、当然ウチでも値段がつかんぞ」

他社(競合や顧客)に誘われないような人材は自社でも必要ないということですが、
まったくその通りだと思います。

社内の評価では好き嫌いなどバイアスがかかりやすいですが、
市場では必要か必要でないかの判断がはっきりと下されます。

やはり本当の評価を受けるためには外を向いて仕事するべきでしょう。

その後竹内さんはスタンフォード大学に留学しMBAを取得、
帰国後はフラッシュメモリの製品開発のプロジェクトマネジメントや企業間交渉ならびに
マーケティングに従事されます。

東芝を退社後は東京大学大学院で准教授として研究室を持たれています。
(現在は中央大学理工学部教授)

竹内さんが大学で力を入れていることに「MOT(Management of Technology)」があるそうです。

直訳すれば「技術経営」となりますが、技術者に身につけてほしい経営学的スキルのことです。

本書内ではスイッチングコストに触れられていますが、この考えもとても重要です。

スイッチングコストとは顧客が既存の製品から新製品に切り替えるときに負担しなければならないコストのことですが、表面処理においても大切な要素です。

最近書いたブラウン処理を例にとって考えてみましょう。

ブラウン処理は黒化処理と比較すると薬品代は高くなってしまいます。

水平装置がなければ設備投資は必要ですが、ブラウン処理にすることで生産性は向上しますし、廃液処理は容易になります。

よって単位面積あたりのコストは安くなる可能性があります。

つまり様々な要素を複合的に捉えて検討する必要があるのです。

技術者こそ視野を広げ、MOTの考えをもって開発することは今後ますます重要になりますね。

最後に本書内にたびたびでてくる言葉、

『走りながら考える』

スピードの速い現代には必須の考え方ですね。